脱プラットフォームを考える⎯⎯まずはLINEをやめてみる

Orillo.org は、日常を覆うさまざまなプラットフォームへの依存から脱却するための手立てを日々模索しています。そこで日々のデジタル・ツール再考のための連載をはじめることにしました。これはその第一回目にあたります。今回は、LINE というプラットフォームの問題に触れます。その上で、次回は、代替案のひとつとしてDelta Chatというオープンソースのアプリを紹介したいと思います。

LINEのなにがよくないのか

LINEにはあまりにも多くの問題があります。まずなにより、LINEヤフーという日本企業によって運営されているということが問題です。ソフトバンクとネイバーの合弁企業、Aホールディングスの子会社にあたる以上、韓国や米国の資本との関係もありますが、いずれにしてもまともな国であるとは言えません。

LINEヤフーの問題は、Yahoo! JAPANに欧州のIPアドレスからアクセスしてみるだけでもわかります。次のようなエラーメッセージが表示されるはずです。

2022年4月6日 (水) よりYahoo! JAPANは欧州経済領域(EEA)およびイギリスからご利用いただけなくなりました。[…]なお、お客様が日本国内でYahoo! JAPANサービスをご利用になる場合は、引き続き全てのサービスをご利用いただけます。

なぜこのような事態になっているのでしょうか。LINEヤフーにとっては不都合な事実なので、何の説明もありません。とはいえ、ふたつのことが透けてみえます。ひとつ目は、欧州では違法と見なされることをしているということ。ふたつ目は、そのような行為を日本では継続しているということです。その行為とは、ひとことでいえば、データ主権の侵害です。

データ主権とは、個人や国が自身のデータに対して持つ権利のことです。狭義には、特にその扱われ方についてみずから決定できる権利のことですが、そのほかにも、自分のデータの管理状況を知るためのアクセス権や、誤った情報の修正を要求するための訂正権、自分のデータの削除を要求するための消去権(忘れられる権利)、自分のデータを他のサービスへ移すためのデータポータビリティの権利などが含まれます。これらの権利はすべて、欧州においては一般データ保護規則(General Data Protection Regulation、以下GDPR)によって守られています。

欧州の居住者のデータが扱われる際には、これらの権利の尊重だけではなく、データの活用にあたって明確な同意の取得が必要になります。これを「オプトイン」といいます。たとえば、欧州のウェブサイトを利用する際には、とりわけユーザーの行動履歴を保存するCookieの扱いに関して、同意が求められます。たとえば、このAir Franceのウェブサイトのように、ポップアップがあらわれます。そこでユーザーが取りうる選択肢は、多くの場合、三つあります。同意事項をすべて受け入れるか、部分的に受け入れるか、すべて拒否するかです(つねに拒否することをおすすめします)。

日本にも個人情報保護法というものがありますが、基本的には日本国の居住者のデータ主権を蔑ろにするものと考えていいでしょう。データの扱いをめぐる同意に関して、日本の場合はオプトインに対して、オプトアウト方式というものをとっています。これは、ユーザーが積極的な同意をしなくても拒否しないかぎりは同意とみなす、というものです。裏を返せば、自動的にオプトインさせられているということです。ほんの一例として、Yahoo! JAPANのプライバシー管理のページを見てみると、PayPayの使用履歴なども含め、じつにさまざまなデータが勝手に収集されているのがわかります。行動ターゲティング広告の設定のページのURLに「optout」いう語が含まれていることが示唆するとおり、まずは自動オプトインありきでサービスが設計されています。

いわば、度の過ぎた侵犯行為をひそかにしてみて、相手が気づくかどうか、気づいた場合に声をあげるかどうかを見極める。声をあげたとしても泣き寝入り状態に持ちこめそうなら、粛々と続行、ということになるでしょうか。なお、沈黙を勝手に同意とみなすことを「黙示の同意」と言いますが、これは性犯罪者がしばしば用いるロジックでもあります。ようするに、日本においては、利用者が声をあげないかぎりはデータ主権を侵し放題の状況になっているのです。このことはLINEヤフーのプライバシーポリシーを読んでみるだけでわかります。文面からひしひしと伝わってくるのは、次のように人の足元を見るような思いあがりです。

「われわれは穴だらけの個人情報保護法に基づき、あなたの黙示の同意のもとであなたのデータを好きに使わせてもらう。われわれのやり方に納得できないのならいつでも利用をやめてもらっていい。2023年の総務省の調査報告書にあるとおり、いまでは日本人の九割以上がLINEを使っている。やめてこまるのはあなたひとりであって、われわれではない」

このような胸糞の悪い行為を平然と続けていること。それがLINEの問題です。そしてこれはLINEヤフーにかぎった話ではありません。GMOや楽天をはじめとする多くの日本のIT企業にも同様のことが言えます。もっといえば、日本で黙って暮らす私たち自身の問題です。

さらに一般化すれば、これはプラットフォームというものに避けがたくついてまわる問題です。Orillo.org のマニフェストに指摘されているとおり、プラットフォームは成功をすればするほど、劣化してゆきます。LINEだけではなく、私たちが日常的に利用しているプラットフォームがこれからも深刻な形で劣化してゆくことになるでしょう。そのときに皺寄せを受けるのはひとりひとりの利用者です。したがって、手遅れになる前に(すでに手遅れかもしれませんが)、プラットフォームをめぐる問題を人権をめぐる深刻な問題として認知した上で、私たち自身の認識をあらためていかなければなりません。LINEをやめることは、その第一歩になります。

LINEからゆっくり下りてゆく

LINEをいきなりやめる必要はありません。Orillo.org では、LINEというプラットフォームに囲いこまれずにも生きてゆけるような代替案の併用を試みています。しかし、その代替案が新たなプラットフォームになってしまうかぎりは、構造的な問題から抜け出すことはできません。そこで、プラットフォームではなく、プロトコルを重視します。

ここでいうプロトコルとは、通信の取り決めのことです。たとえば、インターネットというものは、さまざまなプロトコルに基づいて動いています。代表的なものとしては、TCP(Transmission Control Protocol)やIP(Internet Protocol)といったものがあります。その上にHTTP(Hypertext Transfer Protocol)をはじめとするプロトコルがあり、ワールドワイドウェブのようなものができあがっています。

プロトコルさえ共通のものを使っていれば、アプリの種類は問いません。たとえば、現在広く使われているウェブブラウザにGoogle ChromeやSafari、Firefoxといったものがありますが、どれもHTTP通信をしているという点では同じです。さらに、現在のソーシャルメディアに関して言えば、ThreadsやMastodon、Misskeyといったサービスはどれも同じActivityPubというプロトコルで動いています。そのため、異なるアプリ同士にも互換性(インターオペラビリティ)があり、通信が可能です。また、たとえば、フォロワーを引き継いだまま、MastodonのサーバーからMisskeyへと引っ越しをすることもできます(すなわち、データポータビリティがあります)。

LINEというアプリもさまざまなプロトコルを用いています。HTTPも使っているし、暗号化のためにSignal Protocolというオープンソースのプロトコルも使っています。しかし、メッセージのやりとりの核となる部分においては「LINEプロトコル」とでも呼べるような独自のものがアプリに組みこまれています。そこで、LINEの利用者は利用者同士でしかやりとりができなくなり、閉じたエコシステムが生まれます。そして、みんながLINEを使っているから自分も使うと安易に考える者たちがあまりにも多かったために、多くの人がこのLINEという隘路にはまり込んでしまいました。

このとき、こうした罠を避ける上で重要なのが、営利企業が人を囲いこむために開発したプロトコルではなく、オープンソースのプロトコル、だれしもが利用可能なありふれたプロトコルを使うということです。その典型がメールの送受信を可能にしているIMAP(Internet Message Access Protocol)とSMTP(Simple Mail Transfer Protocol)です。もっとはっきり、こう結論づけることもできます。

みんなLINEをやめて、メールでやりとりをすればいい。LINEの開発秘話として、東日本大震災を受け、電話回線がなくても使える緊急時のホットラインとして作られたというまことしやかな物語があります(本当は、韓国市場でカカオトークに敗れたネイバートークが日本市場に活路を求めた、という事情があります)。そして、最初のスマートフォン世代の人々が新しいものに飛びついた結果、メールがどこか古臭いものとみなされるようになりました。しかし今後、本当の意味でLINEが古びることはあっても、メールが陳腐になることはありません。メールは日本だけではなく世界中の多くの人とのやりとりに使えます。それに対して、LINEが普及しているのはせいぜい日本という島国や台湾やタイのような日本の旧植民地くらいです。

メールとチャットは別物だと思われる人もいるかもしれません。それはきっと、現在流通しているメールアプリの多くが長文でのやりとりに適した形になっているので、そのように思われるのでしょう。しかし、メールとチャットの間に線引をする必要はどこにもありません。線引をして得をするのは閉じたチャットサービスを運営する営利企業であって、エンドユーザーのほうではありません。なにより、メールプロトコルを用いたチャットアプリが現にいくつか存在しています。それらは劣化の過程にあるLINEよりもはるかにきれいなインターフェイスで何の不都合もなくチャットができるものです。

そのひとつが Delta Chat です。LINEの代替案としては、最有力候補のひとつに数えられると思います。オープンソースなので、企業の利益にはなりません。そのため、大々的に宣伝されることもありません。当然、日本語には翻訳されていません(日英の翻訳者を募集しています)。次回は、この Delta Chat について詳しく述べたいと思います。

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